開業する?勤務医を続ける?歯科医師のキャリアプラン

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歯科医師数過剰問題が取り上げられてしばらく経ちます。全国の歯科医師数は2010年に10万人を超え、それに合わせて全国の歯科医院数も増加の一途を辿っています。1996年には約59000施設しかなかった歯科医院も、2019年には約68500施設と大きく増加しています。今回はそんな中、開業したいと考えている先生と開業しなければいけないの?と思っている先生へ向けて、開業する・しないの選択肢について見ていこうと思います。

開業するメリット

最初に歯科医師として開業するとどのようなメリットがあるのか紹介していきます。

自分のやりたい治療ができる

勤務医で働いていると、勤務先のクリニックの治療方針や院長の治療方針に従わなければいけないことがあります。また、自費治療だけしたいと考えている先生もクリニックの方針で保険診療をしていることがあります。開業すれば自費診療専門のクリニックにすることもできるし、アポイント枠を自分の好きなだけ確保することもできるのです。

収入の上限が広がる

勤務医の先生は大きく分けて「固定給と歩合給」の2つの給与形態で契約しているのではないでしょうか。固定給の場合は患者数が少なくてもよく、歩合給の場合は患者数が多ければ給与も多くなるというシステムです。一般的に歩合給の場合、売り上げの20%前後が自分の給与へ反映されます。

開業すれば個人売り上げの全てが医院のお金になります。歩合でいえば100%が自分(医院も含む)の使えるお金になるのです。勤務医時代は自費で行っていた勉強会も、開業すれば医院の経費という形で行くことが可能になります。

また、開業すると診療したらしただけ医院の収入が増え、最終的には院長個人の収入も増えることになります。勤務医は給与の上限が一定ラインで決まっていますが、開業することで収入の上限をあげることが可能になるのです。

患者を選べる

やりたい治療ができるようになることと同じですが、開業すれば患者を選ぶことができます。歯科医師には応召義務があるため診療を希望する患者に対して診療拒否はできませんが、自費診療専門にする・矯正歯科専門にするなど工夫をすることで自分の診たい患者を選ぶことができます。

開業するデメリット

開業するメリットがある一方、開業するデメリットもあります。デメリットもよく把握して、開業するリスクについて理解を深めましょう。

開業資金がかかる

開業するためにはお金がかかります。テナント代や土地代・建物代はもちろん、ユニットやレントゲン、歯科衛生士や歯科助手の給料まで開業資金に含まれるのです。また、保険診療をしてから社会保険報酬支払基金へ申請し振り込まれるまで3ヶ月程度かかります。その間の生活費も開業資金といえるのです。

開業資金は平均して5000万円前後とされています。しかし、これだけのお金を自分で用意するのは大変です。多くの開業医は一部自己資金を用意しておき、それを頭金として銀行など金融機関から融資を受けることが多いです。

その後も毎日使うコップやエプロン、印象材、リーマー、医療機器が壊れてしまったときなどの費用もかかります。開業は勤務医とは異なりお金の問題が常に付き纏うのです。

新規開業では集患が大変

新規開業をするときに問題となるのが集患です。患者は既存の歯科医院へ通っているケースが多く、内覧会やチラシを配るなどして集患しなければいけません。最近ではインターネットの普及により、ホームページは必須でそれらの用意をするためにもお金がかかります。

親が歯科医師で世襲する場合も同様です。

人材教育・募集

歯科医院では歯科衛生士、歯科助手といったスタッフも必要です。知り合いに有資格者がいればお願いすることも可能ですが、ほとんどは求人サイトや求人誌を介して募集をかける必要があります。求人サイトや求人誌へ掲載するにもお金がかかり、そこから面接を行い正式に採用するのは一苦労ですよね。

また、歯科衛生士や歯科助手を採用しても、クリニックの雰囲気や治療方針を理解しているわけではありません。院長の考え方や治療方針を理解させるために教育する必要も出てきます。

開業しない選択肢も増えている

歯科医師として誰しも「一国一城の主」になりたいと思うことがあります。しかし、現代の歯科医師過剰時代では一概にそれが正解とはいえないのです。ひと昔前であれば歯科医師であれば開業してこそ一人前という考え方がありましたが、今ではそうではありません。歯科診療の技術が開業できるレベルであっても、医院を経営していく技術がなければ開業すべきではないのです。

勤務医の中には経営方法について熟知している人は少なく、ギリギリの経営をしている人もいます。歯科医師として開業するために必要なのは歯科治療の技術ではなく、歯科医院を経営する技術が必要になるのではないでしょうか。

近年では、開業しない選択をする歯科医師も増えており歯科医院を経営している医療法人の中には「65歳で定年」と募集要項へ記載するようになりました。開業しなければいけない時代から、勤務医として仕事を続ける選択肢が増えた証拠です。

キャリアプランは人それぞれ

歯科医師は開業するという時代から勤務医として長く働き続ける時代へと変革してきたように感じます。また、開業志向が強い先生と開業したくないと考えている先生の二極化が進んでいる印象を受けます。その結果として分院展開している医療法人はスタッフ数を増やしつつ医院数も増やしていけているのです。

昔のように「1医院1歯科医師」ではなく、「1医院複数歯科医師」がトレンドとなっている今、無理に開業を選ぶことなく開業歯科医師と同程度の給与を稼ぐことができる医院もあるのではないでしょうか。もちろん、開業志向の強い先生は開業するためのリスクを十分に理解して開業していただければと思います。